アイデンティティーが人を殺す アミン・マルーフ 小野正嗣訳 ちくま学芸文庫

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「アイデンティティーが人を殺す」のレビューです。我々が持つアイデンティティーに対する考え方について述べた本です。アイデンティティーを宗教や文化国など1つのものに帰属させることの危険性を指摘しています。例えば、移民には生まれた国と移住した先の国の2つがあり、それぞれがその人のアイデンティティーの帰属先であるべきであり、これは普遍的な権利であると言います。この権利を認め合うことがこれからの世界のグローバル化には必要なことであると。

本書で述べるアイデンティティーの帰属先には複数あることを尊重すべきと言う考えは、何も移民や宗教などに限ったことではなく、あらゆることに適用されるべきだと思います。例えば、いじめっ子だった人が、ある時を境にいじめられっ子になってしまった場合、その人はどちらかに帰属するものではなく、両方に帰属するものだと思います。周囲はその人の多様な経験を認めることが必要ではないでしょうか。そして、いじめた側、いじめられた側の両者がお互いの立場を認めることも必要なのではないかと感じました。もちろん、大前提は強者が弱者をきちんと尊重する姿勢があってのことです。

ただ、そしてもう一つとても重要なことも述べています。「私たちには一番攻撃にさらされる帰属におのれの姿を認める傾向がある」と。つまり、いじめた経験よりもいじめられた経験の方に自分の姿を写してしまうということです。いじめられた経験がある人は、自分がいじめた経験を棚にあげ、自分も被害者であると述べやすいということです。それがいけないというのではなくて、自分がいじめたこともきちんと認めることが必要であり、いじめられた経験がいじめたことを無かったことにはしないということです。

最後に、アイデンティティーは動物のヒョウと同じで、迫害すると人を殺し、自由にしておいても人を殺すものだが、飼い慣らすことができるものだとも言っています。あらゆる立場の人たちが、それぞれの相手を尊重できる世の中になればいいなと思います。

掲載日 2021年6月28日

 

 

 

 

 

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