アイデンティティと暴力 アマルティア・セン
「アイデンティティが人を殺す」に続いて読んだ本です。
センはノーベル経済学賞を受賞した経済学者ですが、宗教的に複雑な環境に置かれた人のようです。内紛によって人が目の前で死ぬ様子も目の当たりにしたとのことで、それが歪んだアイデンティティを持つ人たちによって引き起こされたことから、単一のアイデンティティに縛られることの弊害を述べています。アイデンティティの帰属先を1つに限定してしまうことが、他者を排除することになり、それは戦争や争いを引き起こす元になっており、この考え方は、「アイデンティティが人を殺す」と共通するものであり、同じ思想に基づくものと感じます。
センは、本書において貧富の差の拡大についても述べています。貧富の差の拡大がグローバル化による弊害だと言われることもあるが、グローバル化が悪いのではなく、そのやり方が問題なのだと言います。
自分たちと相手とを特定の帰属によって分けることで、争いが起こっており、アイデンティティというものが間違って使われている。本来アイデンティティは多様なものであり、特定の帰属に帰するものではないとも述べています。
これまで、マルクスの資本主義、アイデンティティに関する2冊の本を読んで思ったことを記します。
グローバル化の流れにおいて、富める者がさらに自分の富を増やそうとするとき、その富を自分に多くもたらすために、利用する味方と搾取する相手を決めル必要があります。その道具としてアイデンティティを使うのが便利です。昨今の貧富の差の拡大の根底にあるのは、グローバル化ではなく、むしろ資本主義にあるのではないかと思います。グルーバル化をチャンスと見た資本家たちが、自分たちの利益を増やすためにグローバル化を推進して利益を得る土壌を広げます。そして、利用する味方と搾取する相手を得るために、アイデンティティを利用して2つのグループを作り戦わせ、勝った方を味方として利用し、負けた方を搾取の対象として利用します。そうすれば、少ない投資で最大の利益を得ることが可能になります。
つまり、富を得たければ、資本主義とアイデンティティをうまく活用(悪用)すればよいのだということになるのでしょうか。
そういう世の中は良いものとは思いませんので、もっと本を読むなど勉強して、いろいろ考えてみたいと思います。
2021-07-23 掲載